登記簿などをみても、所有者が直ちにわからなかったり、あるいは判明しても所有者に連絡がつかない土地、いわゆる「所有者不明土地」の増加を抑制して有効活用につなげるための対策が、現在いくつか検討されています。
それぞれ確認してみましょう。
1 相続登記の義務化
土地所有者の死後、相続時の煩雑な手続きや、登記費用の負担がかかるために「登記簿上の名義を書き換えず放置するケース」が多くあり、所有者がわからなくなる原因のひとつとなっています。
そこで、法務省の法制審議会において「手続きを簡素化した上で、土地所有者が亡くなった際の相続手続きを義務付ける」案が検討されています。
- 被相続⼈の死亡時に簡易的な登記を義務付け
- 登記を怠った相続⼈への罰⾦として「10万円以下」や「5万円以下」といった案が検討
これらの内容の詳細については今後詰めていくとのことですが、所有権の移転登記費用(物件の評価額による)に加え、司法書士(登記の専門家)報酬の相場として「3〜7万円」と言われており、罰金の額等、実効性のある案が求められるでしょう。
参考「土地相続登記を義務化へ 罰則検討、手続きは簡素に」
出典:日本経済新聞(2019/11/26)
2 国・自治体への調査協力を土地所有者の「責務」とする
土地所有者の管理意識が低下していることも、所有者不明土地が生じる要因のひとつとなっています。
国土交通省では、土地の所有者に対し「土地の境界を明確にさせる調査」を推進し、また国や地方公共団体が実施する施策への協力が「責務」であることを明確化する方向で検討を進めています。
不動産を所有する人の管理意識が低いと、開発の遅れや周辺環境の悪化にもつながるため、意識づけをする上で良い取り組みと考えられます。
参考「所有者不明土地増加を抑制へ 国への調査協力は「責務」」
出典:産経新聞(2019/11/24)
3 所有者不明土地の使用者への課税
現在、土地の所有者に課税されている「固定資産税」を、土地に居住したり事業をおこなう「使用者」に課税できるように地方税の改正を検討する動きが出てきています。
所有者不明の土地は、所有者の特定に時間がかかることや、所有者と連絡がつかないことから徴収モレが生じ、一方で使用者は固定資産税を支払うことなく土地を利用することができる「不公平な現状」となっています。
そうした事態を解消するため、戸籍などの調査を尽くした上でも所有者が特定できない場合に限り「使用者」に課税できるような制度が検討されており、政府は2020年の通常国会での改正を目指しています。
参考「所有者不明土地、使用者から課税可能に 来年の通常国会で法改正へ 」
出典:産経新聞(2019/11/24)
4 土地の所有権放棄
現在、土地の所有権放棄は認められていません。放棄を認めることは、課税逃れや、管理費⽤の国への転嫁などにつながる恐れがあるため、慎重に検討しなくてはならない内容です。
現在、法務省の法制審議会で検討されている原案では「所有を巡って争いが起こっておらず、管理も容易にできる」ことを条件に、所有権の放棄を可能にすると明記されています。
放棄された⼟地はいったん国に帰属、地⽅⾃治体が希望すれば取得できる仕組みを検討していくとされていますが、果たして制度設計はうまく進むでしょうか。
参考「土地相続登記を義務化へ 罰則検討、手続きは簡素に」
出典:日本経済新聞(2019/11/26)
まとめ
所有者不明土地の対策として現在検討されている4つの動きについて、それぞれ確認してみました。
これらの案の多くは年内に取りまとめられ、来年の通常国会や秋の臨時国会で提出する、とされています。
提出までの間に「意見公募」等を経ることも予定されているため、よりよい制度設計のためにもぜひ活発な議論を期待したいところです。